!>やらしめです
















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Occasion

3.steal the sun





むくりと体を起こした阿部は数枚ひきぬいたティッシュに中身を吐き出すと簡単に口元をぬぐった。ぬぐってから、すこし目を眇めて榛名をみた。

「飲んだりとかしないと、やなタイプですか」
「……別に」

飲んだりも何も、お前の口って喋るのと食べる以外に、そんなのに使う機能があったのかといいたいぐらいだ。伏せるとまっすぐなことがよくわかる睫毛が濡れてほんのすこし纏わっている。

あー、えぐい、といって口元をおさえて、顎の付け根を指でマッサージする阿部の背中をTシャツから首をすっぽぬきながら見る。

うすくぴっちりと張った筋肉の下で機巧じみた骨格が浮き出して見える背中だ。極端に華奢なわけでもないし、鍛えすぎなわけでもない年に見合った、どちらかといえばしなやかで性徴のちゃんとした体だ。

「やなタイプだ」と告げたら飲んだりもしていたのかと下世話なことを考えると、腹の底で誰かが苛立たしく足踏みをした。玩具屋の前であれが欲しい、これが欲しいと足をつっぱる子供の足音だ。

ぼん、と足の間うすっぺらいマットレスとすこしつぷれかけた布団の上に小さなボトルが跳ねるのに榛名は目をまばたく。転がる前に左手で受け止めてパッケージを見れば、ローションだった。開封済みなのが無駄に生々しくて蓋をひねりながら阿部の膝を抱えて太股にのせる。

「……お前こんなん使うの」
「前の彼女が痛がるタイプだったんで」

デリカシーのカケラもない。言えばあんたに言われたくないと返されるのがわかっていたから黙って容器の腹をぎゅっとおすと、ほそく糸をひきながらすこし着色された透明な粘液が手のひらのくぼんだところにたまっていく。熱でゆるんでぬるつくのに確かに楽にできそうだとは思う。ただうそくさい桃の匂いが好かない。

「……お前な、ここでそれ言うか?」
「やならツッコミ入れないでくださいよ、つか、そっちじゃないです」

熱をはらんですこし湿って、あきらかに男の手入れなんてしたこともない硬い手が背後に回されようとしていた榛名の手を掴む。

「こっちは今日使わないって言っただろ。それにやんならゴム使ってください」
「……じゃあ、これなんに使うんだよ」
「それに塗っててください」

びちゃ、と両手に垂らしてローションをぬるめながら阿部が膝立ちになったのになにをするんだろうと見あげる。あまり肉のついていない、女と違って脂肪が少ない形の太股にローションを塗るのに目を瞬いていると目があった。きゅ、と片眉を顰めてかすかに目を眇める、わずかに耳が赤くみえるのは気のせいだろうか。

「いわゆる素股って奴でやったこと……、は、ないですよね。つうかあんま見んなよ」
「見るに決まってんだろ。つか、なんとなくわかったぜ」
「ちょ……!」

体を起こすと、二の腕をつかんで引き倒し、慌てる声もお構いなしに体を裏返した。ぎしぎしっと安いスプリングが鳴り響く。壁がどん、と隣から叩かれるのに喉の奥ですこし笑った。安普請だから壁がうすいのはしょうがない。

うつむいて耳元に笑いながら声を落とす。

「こうだろ」
「……」

違えの、と聞いて返った沈黙は肯定だ。

まだ残ったジェルでぬめる手を太股の間に差しこむと、緊張したのか女と違って張りつめた熱く肉にはさみこまれた。姉がクローゼットに大事にしまいこむ高めの服によく似た、存外になめらかな感触が面白くてゆっくりと挟み込んだ指先をもちあげていく。気持ちがよかった。男の体だって、やわらかいところはちゃんとある。

ふ、と耐えかねたのか腰が浮くのに手のひらをすべりこませて、痛くないように押しつける。重力にわずかにさからっている触角をつかめば、唾をのむ小さな音がした。濡れそぼったのをなぞりながら震える首筋に小さく歯を立てると、ひそやかに息を飲むのがわかった。背筋から耳の後ろを熱が這いずりあがってくるのに逆らわず、榛名も息をゆるくほどいていった。

熱で熔けて指どおりがよくなった、粘膜めいたところにきつく熱く挟まれるのを想像すれば唇が乾いて仕方ない。

「……膝、立てろ」

声はみっともなく震えていたような気がする。返事も待たずに腰をつかんでもちあげ、太股を太股で後ろからおさえこむ。ぬるぬると滑らせながら、それなりに丸い臀部、翳った狭間に左親指を滑らせながらもう片方の手でかきわけると、ぶるっとうつぶせた背中が慄いた。期待か怯えかは知らない、皮膚の周りの温度が一気に十度はかけあがった。

内腿のなめらかなはざま、ぐちっと熱い皮膚に挟み込まれて、くうっと喉が鳴る。背筋にそって汗がうかび、目の前に緑か赤かもしらない、幻の光りが斑を描く。どんどんとこめかみを叩く昂奮のまま、背中をひきよせた。

(……悪くは、ねえ)

どこのソープの技だよ、と思わなくもないが、ぬちぬちと柔らかくてなめらかな肉に挟まれて、こするのは女の粘膜とよく似ていていい。ただもの足りない気もして、上から腰を押さえつけながら、臍の下を浮かすように押しつけた。

「う、」

先端が熱くて濡れきったやわいなにかを捏ね上げた、とたんにぎゅっと挟みこまれて息をのむ。なんだ、と思いながらもう一度おなじようにすると、今度こそ小さな声がこぼれ落ちて阿部の肘が重みに耐えかねたように折れかけ、がくがくと揺れた。

あー、そりゃ当たるよな、と思い当たる。とうぜん男にとっては急所だけれどやりようによっては悪くない場所だ。

「ぁ……ッ、く」

口をあけてガムを咀嚼するのに似た行儀の悪い音に、どことなしに細いままの背中にのしかかってズプリングをゆらす。どんどんと隣から壁が叩かれようが知ったことではないし、文句を言われるのは阿部だから知らない。どうせゴミ出しのくらいしか顔も合わせないだろう。

「あん、ま、強く……やんないでッ、くだ…」

痛ぇよ、と掠れた泣き言に手を伸ばして前を掴みあげると、指の股までいっきにどろついた雫がつたいおちて、シーツにほそく糸をひいた。かくんと左の肘が落ちれば、なしくずしにつっぷしてシーツに沈む。瓶詰めのジャムをかき回すのに似た音が小さく聞こえては、しゃくりあげるような呼吸にかき消されていった。

「ぁ」

うつむいたせいで夜明かりに浮かび上がる、頚椎のでっぱりに鼻をおしつけて、合成の果物の香りの後ろからすこし土めいた匂いをさがす。マウンドの細かい土が太陽を浴びた、香ばしいにおいだ。春と似ている。

ぬるつく先端のくぼみを指先でなぞりながら、ぎゅっと太股を太股ではさんでもっときつくなったうすい皮膚を擦りあげていく。もうローションか体液だかもわからない雫が手首まで落ちてく。

「おまえ、すっげー汁でんのな。……体質?」
「るせ、……っ、――ぁ、う」

あまりにすべりがよすぎて触ってやるには却ってやりづらいくらいだ。すこし体を起こして、べちっとやせた太股を叩く。

「なあ、もうちょっときつくできねえの」
「……」

答えが返らないのにしょうがねえな、と体を離すと腕をひっぱって横倒しにした。なに、と肘をついて体をおこす前に横向きに膝をたたませて抱えこむ。体をまるめて眠る子供じみた格好の、その足の間にもう一度ねじこんだ。

ひゅ、と息を呑む音をききながら、榛名はぐうっと下腹に力をいれて堪えた。腰骨の奥から膝の裏あたりまでじいんと疼く。

(こっちのが、いい)

どうしたって女より肉がうすくて挟むのには限界があるから、びっちり押さえこんだほうがいい。ぶるっとおののく首筋にうすく歯をたてると、抱えこんだ肌がちいさく粟立つのがわかった。襟首のあたり、カーテンのすきまからおちる夜明かりに日焼けしたところと生白いところが明らかにわかって面白い。なんでもなく眺めていたものが違う貌をみせてくる。

(本番やりてえけど、やならしょうがねえし)

べったり押しつぶすのは咎められて、かといって体重を腕一本でながく支えていられもないから、前を触ってやれない。どうしようかと考えていたら阿部が肩をもぞつかせた。

こんな面でやり方で毎回ぬいてんのか、とかんがえた途端、頭が煮える。たまらなくなって空いた手で背中をなで下ろすと、阿部の喉がひくっと鳴った。

「――ぁ!」

多分、生肉を目の前にした犬みたいな顔を自分はしている。おののく肩口に唇を押し当てて、低く告げる。

「やめんなよ。オレも勝手にするから」
「ゆ、指……っ。今日、い、れ……ねぇって、オレ」
「だから、入れねえよ。触るだけ」

あんまり好きそうじゃないのは知っている。がちっと歯を噛む音に耳をよせると、はあっと熱い息の合間にこぼした。

「う、おれ、そっち、あんま」
「あ?」
「やって、ね、から、……っ、あんま」

よくない、とふるえる声で言われて信じれるほどお人よしでもないしバカでもない。そうか?ととぼけながらぐりっとねじこんだ親指を回していくと、ふうう、と息をおおきく堪えながら吐く音がした。

「――い、う」

きゅうっと指にしゃぶりつかれて、びくつく太股に痛いほど性器をはさみこまれる。シーツに足をつっぱって、とわたりを擦りたてながらうめこんだ指を捏ねまわす。まるで夜中トイレが怖くて、布団の中むりやり我慢する子供じみた格好に笑いそうになりながら、なあ、と浮かれた声をだした。

「おまえさ、オレで、抜いたりすんの」
「……っ、ねえ、よ!絶対、ねえ!」

耳から二の腕まで赤くする。噛みつくように返った掠れた声に、ぎっとスプリングをゆらしながら榛名は唇を尖らせて、鼻をすりつけた。

「なん、だよ。俺すんのに、よ」
「〜〜っ」
「今度やれよ。なァ」

いやです、と口元に当てた手のうしろから言う声が弱弱しくて、おっかなびっくり逃げ腰の子供を追いかける犬みたいな気分だ。尻尾があったらきっと振っていた。ぴったり下半身に腹をおしつけ、やれって、と囁くと、うう、と唸って額をシーツに擦らせた。

根元にまつわりついた絨毛をかきわけて、にぎりこんだ。指の間からのぞく、赤い果肉をみせてはじけた果物みたいなところをことさらに親指でくじると、せっぱつまって短くこもった声をこぼして、シーツに思い切り皺をよせた。

今更隣人に気兼ねしたのか、枕に噛み付いてばかばかしいぐらい、息をひそめて阿部は自分の指を精液でよごした。きっと同じ、悔しそうな顔でしめきった風呂場とかでゆっくり手を伸ばす、フルカラーで想像しながら思い切り足の間にひっかけてやった。







→「063:でんせん」
文字書きさんに100のお題より
配布元:Project SIGN[ef]F



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